ボードゲーム『カリフ』ではゲーム中にイスラームの教えについて問題を考察するイジュティハードを行います。
これらの問題と回答は中田先生によるガイドブックに基づいて評価されますが、本記事ではガイドブックのサンプル記事をご紹介します。
普段の常識とはちょっと違った角度から考える諸問題、あなたはどう回答しますか?
イスラームには、領域国民国家の概念はありません。「自国」というのが、日本やアメリカやサウジアラビアやイランのような国を意味するなら、答は「No」です。
世界はカリフが神の法によって治める「ダールルイスラーム(イスラームの家)」とその外の無法地帯「ダールルハルブ(戦争の家)」に分かれます。「ダールルハルブ」はカリフと講和条約を結ぶことで「ダールッスルフ(休戦地帯)」となります。
ダールルイスラームに居住を許されるのは、納税を条件に子々孫々に至る永代居住権を保証された庇護民(ズィンミー)と、ダールルイスラームのムスリム住民が保証人になって外からやってきてダールルイスラームに一時的に滞在する安全保障取得者(ムスタゥミン)に分かれます。
庇護民も安全保障取得民も、ダールルイスラームの中で生命、財産、名誉を保証され、 私的空間における宗教的自治を保障されます。異教徒にイスラームを強制することは禁じられています。改宗はダールルイスラームでイスラームが実践される姿を見て承服し見習おうとする異教徒の自発的入信によってなされます。
現在世界にはカリフはおらず、異教徒が見習うべきイスラームが実践されているダールルイスラームも存在しません。
つまり、現在の世界では、異教徒に改宗して欲しいといくら望んでも、「異教徒を改宗させるべき」、と言える資格のあるイスラーム教徒は誰もいません。
[9:6] 「もし多神教徒の中に,あなたに保護を求める者があれば保護し,アッラーの御言葉を聞かせ,その後かれを安全な所に送れ。これはかれらが,知識のない民のためである。」(クルアーン9章6節)
800年前の法学書イブン・マーザ(1219年没)『アル=ムヒート アル=ブルハーニー(証明の網羅)』には「夫に余裕があれば、妻は召使いを一人所有する権利があり、夫には召使いの経費を負担する義務がある。それは妻には、夫の身の回りの世話に専念するために家事を司り彼女に仕える召使いが必要だからである。」と夫に妻のために召使いを雇う義務が明言されています。
総論としてクルアーンの以下の節に基づき夫には妻の扶養の義務があるからです。
「彼女たちを,あなたがたの暮している所であなたがたの力に応じて住まわせなさい。彼女らを窮屈にして,困らせてはならない。もし妊娠しているならば,出産するまでの費用を,かの女たちに与えなさい。もし彼女たちがあなたがたのため(子)に授乳する場合は,その報酬を与え,あなたがたの間で,正しく相談しなさい。あなたがた(夫婦)がもし話がまとまらなければ,外の女が授乳してもよい。」(クルアーン65章6節)
夫には妻の扶養が義務になりますが、妻の義務は、夫との性交と貞節を護ることで、 そのために夫の許可がなければ家から出てはならず、親族以外の男性と会うことも禁じられます。法学書にあった夫の身の回りの世話とは快適な性生活の用意をすることです。その他の妻の義務は、留守番として夫の財産を保管することです。子育てや家の掃除などは妻の義務には含まれないので、妻が自発的に行わないなら、夫には妻のために召使いを雇わねばならないわけです。
もちろん、これは夫にそれなりの収入がある場合のことで、「アッラーは誰にもできないことは課されない」(クルアーン2章286節)の原則により、夫が貧しい場合には借金をしてまで無理に雇う必要はありません。その場合は夫婦で家事を分担するか、別れるか、二人で話し合って決めることになります。